PΛLS 2017年2月28日号 本号の内容
■最高裁 不可解な審理打ち切りと上告棄却決定 ■「黒い巨塔」最高裁判所 (本の紹介)
■東北BS損賠裁判が結審(仙台地裁)
2・10最高裁西門で抗議・申し入れ
最高裁が上告棄却の不当決定
2・10最高裁前で抗議行動を展開
学研の新規事業=高齢者福祉施設ココファンあすみが丘の居住者の待遇改善を求める声を組合ニュースに掲載したことに対し、2013年に学研ホールディングスと事業会社学研ココファンが仕掛けてきた1320万円の損害賠償とウエブサイトに転載した記事の削除を請求する訴訟の判決が昨年2月に東京地裁(吉田徹裁判長)、9月に東京高裁(川神裕裁判長)から相次いで出されました。損害を認定し(額は、学研HDとココファンに計99万円と請求より減額)、ウェブサイト記事の全面削除を命じ、そして理由の中で争議の正当性を否定する内容にまで踏み込んでいます。
公正な判決を求める申入れを設定すると翌日に棄却決定!
私たちは昨年11月、最高裁に上告し、原審判決が争議の正当性につき権限を越えて否定し労働基本権侵害、労働者の生存権否定を行った憲法違反、法令解釈の誤り、経験則違反などによる判決理由の不備につき、原判決の破棄を求めました。
そして2月2日に「公正な判断を求める申し入れを2月10日に行いたい」旨、最高裁上席書記官に伝え、現在、最高裁で審理中であることも確認、アポ取りして、17名で30分間までとのことで部屋を用意するとの約束で、申し入れを予定していました。ところが、2月6日に最高裁から連絡があり、「2月3日に決定が出たので、申し入れは受けられなくなった」とのことでした。
6日、最高裁第2小法廷(菅野博之、小貫芳信、鬼丸かおる、山本庸幸、各裁判官)から組合代理人に棄却決定が届きました。お決まりのパターンのいつでも出せる三行半の文書で、申入れを求めたのを受けて、即出してきたものと疑わせるものです。「違憲及び理由の不備・食い違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって・・・」などとしていますが、労働基本権を否定した重大な憲法違反や理由不備が存在することは明らかです。全く許しがたいものです。
初めに結論ありきの不公正判決が自動化
深刻な劣化が進む裁判官の判決文
争議経過に関心示さず、判決でいきなり「争議の正当性」を否定した地裁判決
東京地裁は、結審直後の和解打診の際、組合側が詳細に示した争議経過には全く関心を示さず、それは争点にならない旨を述べておきながら、いざ判決の段になると学研の使用者性を否定した労働委員会命令が2003年行政訴訟の最高裁決定で確定したことをもって、「ふじせ闘争に正当性がない」と取って付けたように判示し、ニュース記事の真実性についても組合側証人のココファンあすみが丘の現役の居住者の方の証言を真逆に引用する詐術まで弄して信用性を否定しました。
高裁は「使用者性」めぐる判断が確定したことを「争議解決」などと強弁し
その後も10年以上続いている争議における労働基本権行使を違法視!
さらに控訴審判決では、東京高裁が、勝手にふじせ争議の本質を上記労働委員会係争内容のみに限定解釈し、「本件不当労働行為紛争」と規定し、2003年でそれが終了したのだから、「使用者性が認められない以上、いかなる理由であれ、ふじせ労組が学研HDに対して団体交渉を申し入れる正当な権利はない」、などと断じています。
これは全くの誤りです。こんな錯誤の認定の上に、「ふじせ労組の情宣及び表現行為は正当な組合活動又は争議行為であると認める余地はない」としているのです。私たちは2003年最高裁決定以前も以降も、組合員のみならず非組合員も含めた全員解雇の倒産攻撃を仕掛けた学研の争議責任を追及しており、その責任が免罪された法的事実はなく、判断も為されたことはありません。使用者性の有無にかかわらず倒産攻撃の責任を追及する背景資本への闘いが数多く行われてきた歴史も厳然として存在しています。03年決定で「争議が解決した」、「権利はない」などというのは裁判所の権限をも逸脱した判決です。労働部で係争中なのに裁判所がここまで労働事件への無知ないし労働基本権否定を顕わにしていることは驚きで、憂慮にたえません。
私たちは本件法廷で、争議経過を詳述する中で、2003年に最高裁から不当な決定(行政訴訟における地裁以降の判決)が出されたことを記載し、学研の使用者実態は判例の朝日放送事件に照らしても(同事件以上に)、明白に存在することを述べてきました。このことを今次高裁判決は、「法治国家における裁判を通じての紛争の解決という裁判制度の基本的な機能をあからさまに否定するもの」などと断じています。そして、組合側の法廷での主張を「本件最高裁決定により解決された学研・ふじせ争議の蒸し返しにすぎない」とも言っています。 私たちは既判力を覆して裁判所に改めて使用者性判断を求めたわけではありません。「実際には使用者性がある」ことを述べる、という当然の「判決批判の自由」があり、それを実行しながら闘ってきた争議経過を法廷で示したものです。高裁判決は、これを否定するものであり、根本から誤っています。
2003年、2017年と2度にわたり最高裁が上告棄却の不当決定
今回、原判決が絶対視している2003年の最高裁決定も、労働委員会が使用者概念を切り縮めるために意図的に学研の使用者性を否定した命令を1987年都労委、1996年中労委で出したものの取り消しを求める行政訴訟での地裁・高裁不当判決を追認したものです。東京地裁は「朝日放送事件との同一性が争点」として双方に主張を求めて起きながら、準備的口頭弁論や判決日を何度も延期したあげく、判決では明らかに使用者性において一致する両事件を比較・衡量することから逃げて最初に結論ありきの不当判決を出したのでした。
東京ふじせ企画破産管財人が提訴した損賠訴訟判決では学研の争議責任・使用者実態を認定
都労委命令に先立ち、東京ふじせ破産管財人が提起した損賠訴訟での1985年判決では学研の争議責任事実を明確に認定、学研が使用者の位置にある業務遂行の実態を認定しています。その後、派遣法制定の流れで使用者責任否定(使用者概念切り縮め)の不当命令、決定が頻発されました。
経営と一体になって争議行為禁圧をおし進める裁判所
今回の判決でも、現場で争議責任追及行動を行っている組合への裁判所の誤った敵視が顕著ですが、いま労組・争議団の争議責任追及の行動に対して、不当解雇等を居直る企業・経営側は、「業務妨害」「名誉・信用毀損」などとして損害賠償や仮処分・間接強制の民事手段を使った禁圧攻撃を強めており、許しがたいことに裁判所がこれと一体の判決・決定を自動的に出しています。
抗議・情宣行動を行っている労組の拡声器を奪う仮処分・執行官保管(明大生協争議)、経営側の仕掛けた損賠本訴で証人調べを一切せずに不当判決を出す(大道測量争議)、等々の目に余るかつてない民事弾圧を裁判所が担っているのです。最初から決めた結論にこじつけるために裁判官の書く判決文はつじつまが合わず著しく劣化し、隠しようもなく不公正で横暴な訴訟指揮が続発してきています。その頂点に最高裁が君臨していることを感じざるを得ない今回の不当な棄却決定でした。、
2・10抗議申入書を受け取らせ
最高裁前で抗議集会
最高裁は「審理中ではなくなったので申し入れは受けない」と言ってきましたが、私たちは申し入れ行動予定日の2月10日に最高裁に抗議に赴き、南部地域(南部交流会集中闘争で結集)、そして全都から結集した仲間と最高裁前行動を展開しました。そして、行動の冒頭に最高裁西門で申し入れを受ける予定だった上席書記官を呼び出し、不当な審理打ち切り(おそらく審理などせずに塩漬けにしていたものを内容も精査せず機械的棄却決定を出したものとしか考えられない)と棄却に対する抗議・申入書を受け取らせました。呼び出した守衛室からの電話でも、「申入書の読み上げはやめてください、すぐ受け取って戻ります」などと言っていた書記官に対して、全く不当な扱いでいきなりの棄却決定を出したことに抗議する旨を伝え、手渡した後、皆で要塞のような最高裁の建物に向けてシュプレヒコールをあげました。
この後、南門前に戻ってビラ配布、最高裁来訪者へのアピールを行いながら、ふじせ労組からの経過報告を行いました。そして同じくココファン損賠訴訟の被告とされたふじせ闘争支援共闘会議の仲間からの発言、2月8日に同様に民事弾圧で不当判決を受けた連帯労組大道測量の仲間、そして南部地区労働者交流会の仲間からの連帯挨拶を受けて、改めて抗議のシュプレヒコールを上げ、行動を終了しました。
昼の時間帯の最高裁前は通行人はまばらでしたが、殺人事件の口頭弁論の傍聴に来て並んでいる人々などの多くにビラを配布し、訴えることができました。
本の紹介
「黒い巨塔」 最高裁判所 瀬木 比呂志 著
「第2回城山三郎賞受賞作家にして最高裁中枢を知る元エリート裁判官が描く、本格的権力小説!
司法権力の中枢であり、日本の奥の院ともいわれる最高裁判所 最高裁の司法行政部門である事務総局の一局、民事局で局付判事補を務めることになった笹原駿は、事務総局が、人事権を含むその絶大な権力を背景に、日本の裁判官たちをほしいままにコントロールしていることを知る。最高裁に君臨する歴代最高の権力者にして超エリートである須田謙造最高裁長官は、意に沿わない裁判官を次々に左遷し、最高裁判決の方向さえ思うがままにあやつる。須田とその配下の思惑に翻弄される女性最高裁判事、怪物地家裁所長など自己承認と出世のラットレースの中で人生を翻弄されていく多数の司法エリートたち。彼らは、国民の権利と自由を守るべき「法の番人」としての誇りを失い、「法の支配」とは無縁の上命下服の思想統制に屈服していく。・・・」「最高裁中枢を知る元エリート裁判官が描く、あまりにもリアルな、司法荒廃と崩壊の黙示録!」等の案内がネットでもされています。
終わり近く、最高裁を去る主人公が、長官須田に決別の辞と共に一冊の本を贈る場面があります。「著名な法学者を主人公とする小説」としか書かれていませんが、これは、高橋和巳の「悲の器」(1968年)でしょうね。今の司法はもっと暗いということでしょう。最高裁(裁判所)の真実を知ることのできる作品です。一読をお勧めします。
2・13東北BS損賠訴訟が仙台地裁で結審
学研経営は、2年半以上も前に進学塾「あすなろ学院」を買収した結果生じた東北ベストスタディの内紛とその後の経営悪化でのリストラ等を取り上げた組合のニュース記事を名誉毀損だとして、2013年12月、660万円の損害賠償請求を仙台地裁に起こして遠方への呼出しを狙う等の悪質な嫌がらせ訴訟を濫発してきましたが、こちらでも組合は反撃し、2016年11月の法廷では、学研側証人の当時の東北BS社長への反対尋問、組合側証人の東北BSを離脱した創業家の元役員の方の証言等で、組合のニュース記事の真実性が明らかになりました。当時買収担当だった宮原さんが仙台に来るたびに女性の紹介を求めていた、などという証言も飛び出しました。東北BSは経営悪化の後、昨春消滅しました。2月13日に結審、4月26日(水)13:10に判決となりました。