さる12月22日に開催された学研ホールディングスの株主総会で、私たちは質問権を行使し、学研の争議責任・経営責任を追及しました。詳報は次号以降にお届けしますが、まずは、当日、会場前で参加株主に配布した質問書を掲載します。
私たちは、本日開催の株主総会に対し、
             以下の質問を会社に提出しています。
  
                                            東京ふじせ企画労働組合

 株式会社学研ホールディングス
  代表取締役社長 遠藤 洋一郎 殿
                                                2010年12月20日

                           通 知 書

 私たちは、貴社の第65回定時株主総会において、以下の点について質問権を行使しますので、あらかじめ通知します。

1、東京ふじせ企画労組との労働争議について
  学研が、下請編集プロダクションふじせ企画を73年の全学研労組結成直後から本格導入した経緯お よび貴社がふじせ企画から派遣された労働者らをいかに使用してきたか、そして、東京ふじせ企画が78年1月に倒産した原因につき、説明されたい。学研現経営陣は、毎回の株主総会で、不当な全く同じ文書回答を読み上げて争議の実態を歪曲し、学研の争議責任につき言い逃れをしている。ごまかすことなく回答し、争議解決の方針を示すべきである。
 株主総会では毎回、株主から質問が出され、特に昨年の2度の総会でも新たな株  主の方々からの質問で、争議解決の決断が促された。こうした点につき、経営陣はどう受け止めているのか、回答されたい。
      (1、について、株主の皆さんは別記の説明をご参照ください)

2、学研ホールディングス発足から1年間で浮上した問題について
 1)中間持ち株会社発足、等の組織変更と企業の社会的責任、情報開示についてホールディングス発足      から1年足らずで、学研・塾ホールディングス、学研出版ホールディングスを設立、学研プロダクツサポートへの組織統合をせざるを得なかった点について、総括し、釈明されたい。また、このような組織の乱造・変更に現れている問題をはじめ、学研グループの実態につき情報開示を図る社会的責任につ いての考え方やステークホルダーにどう向き合おうとしているのか、を明確に示されたい。
 2)裁量労働制導入など、労働者へのしわ寄せ策について
 イ)学研パブリッシングの新社長に、三井住友銀行から出向の増山敬祐氏がなっているが、その経緯を示されたい。
 ロ)各事業会社の労働者の労働条件・諸権利につき、誰がどのように責任を負うのか、改めて回答を求める。
 ハ)昨年4月、HD発足を見据えて、編集事業開拓室、営業支援・新事業開拓室、グループ業務アシスト室が新設されたが、その部署の位置づけと業務内容は不明だった。これらを明らかにし、持ち株会社発足後にこの組織と配属された労働者はどうなったかを明らかにされたい。
 ニ)裁量労働制導入の目的を示されたい。
 ホ)今期も、目標(新2カ年経営計画「学研2011」)どおりの売り上げ(2010年=790億、2011年は800億)にならなかったが、売上原価や販売管理費の削減で営業利益18億円を出し、減収増益を果たした形になっている。
 2011年の業績予想785億円、営業利益20億円も、同様のコスト削減で見込んでいるのか?

3、新役員体制と今後の方向
 1)遠藤社長は退任し、相談役として何を行うのか?
 2)宮原氏は、どのような経緯と実績で社長になるのか?
 3)木村取締役らの常務昇格について、根拠を示されたい。
 4)宮原社長体制で学研は何をめざすのか。
  イ)学研の抱えている課題をどう認識しているのか?
  ロ)塾・教室事業について  
  進学塾の買収に関連して、宮原氏はこれまでのM&Aは救済的な案件として 自己評価しているようだが、その点につき説明されたい?
  ハ)老人福祉事業進出について
 介護付き終身住宅の拡大路線について、どう位置づけているのか?

4、その他の決議事項と総会の運営に関連して
 1)株主総会の運営について 議長による専横な総会運営が続いてきた。株主の質問への対応が極めて  不誠実で、公正な総会運営と言えないが、これを改めるべきと考えないのか?また、今年も報道陣をシャットアウトして、密室の総会運営を行うのか?
 2)「市民社会の秩序や安全に驚異を与える反社会的勢力」(18頁)との表現につき説明されたい。

5、財務諸表および業績の実態に関して
 1) 連結で、第3四半期(09年10月1日〜10年6月30日)までで、売上高597億円、この発表時点(8月13日)での通期の売上高予想は、776億円純利益予想が3億円だった。
    発表された通期決算では、売上高781億円で純利益3億円となっている。第2四半期までで、432億円なので、第3、4四半期で349億円の売り上げとなっており、前年同期(09年4月1日〜9月30日)の売上高331億円から18億円伸長している。その大きな要因は、買収した進学塾と学研教室夏季講習の売り上げ増、等とされているが、その内訳を示されたい。
 2)本年6月に合意に達して、エフィッシモキャピタルマネジメントから買い取った自己株式48億5千万円の今後の処理方針を示されたい。

 3)事業整理損失引当金繰り入れ額を5億1千万円計上しているが、その具体的対象となる見込みなのは、何か?

 4)単体の貸借対照表にある短期借入金、107億9千万円は、学研グループ内からの借り入れか?具体的には、どこからの借り入れなのか示されたい。注記にある77億5千万円の短期金銭債務の内容も示されよ。

                                                           以 上
学研の公式サイト「株主・投資家の皆様へ」での学研の主張について 
 1977年12月、学研は、下請編集プロダクションで結成された東京ふじせ企画労働組合を解散に追い込む目的で、委託編集業務を全面的に打ち切り、翌年1月に東京ふじせ企画を倒産させ、35名の労働者全員を解雇状態にいたらしめました。その責任は極めて重大であるにもかかわらず、学研は未だに当労組との一切の話し合いを拒み、争議を長期化させています。
 下請けの側の株式会社ふじせ企画社長工藤英一氏は1980年に「学研の指揮・命令に基づく業務打ち切りであった」という事実と自らの責任を認めましたが、学研は「下請の側からの業務返上だった」と虚偽の主張を行い、「学研は無関係」と装って開き直りを続けています。
 第三者機関においては、東京ふじせ企画破産管財人が学研を相手に提訴した損害賠償請求につき、85年10月東京地裁は「学研が組合解体を狙って業務を総引き上げした」と争議責任を認定し、さらに「学研が東京ふじせ企画労働者の実質的な使用者である」として使用者責任を正しく認定する判決を下しました。一方で87年10月、東京都地方労働委員会は労組法上の不当労働行為の前提たる「学研の使用者性」を認めない不当命令を出し、この取り消し訴訟では2003年に最高裁で命令維持で確定しました。
 学研経営は、公式サイトの中でわざわざ本争議について、上記後者の労働委員会〜最高裁の経過のみを口実として弁解を述べています。しかし、会社が学研の業務引き上げで倒産したことについて学研は口をぬぐって、全く触れていません。そして、この審理をめぐる訴訟の進行や判決自体も、下請労働者への使用者責任をめぐる不当な政治的な判断として、当時も問題になったものであり、今日の派遣労働の問題性につながる内容をもっています。
 学研によって東京ふじせ企画(下請け会社の中が、学研から業務を請け負うトンネル会社ふじせ企画と実際に業務を行う社員のいる東京ふじせ企画に二重化されていた)が
倒産させられた1978年11月から審理が行われた東京都労働委員会では長きにわたって審問が行われ、命令が出されたのが1987年でした。そして、この直前の1985年に労働者派遣法が制定され、派遣元と派遣先が厳格に区別され、派遣先企業の雇用責任(使用者責任)を問うことが困難にされました。ふじせの労働者は今日で言う偽装請負で、ふじせ企画が下請け編集プロダクションとして学研と業務委託契約を結びますが、実際には、ふじせの労働者に対して業務上の指揮・命令を行っていたのは派遣先の学研で、このような場合、これまでは派遣先や親会社の使用者責任が認められていました。しかし、このような「使用者責任拡大の法理」を嫌う大企業経営者などの圧力で、この「支配あるところに責任あり」という正しい法理がなし崩しに切り縮められ、派遣法制定の流れと共に不当な裁判所判決・労働委員会命令が出されるようになりました。
 学研・ふじせ事件でも、87年の都労委不当命令が出され、 中央労働委員会においては1990年4月の結審後、6年余にわたり棚ざらしにされ、再審査命令が発せられたのは実に1996年7月3日で、内容は不当命令を追認する簡単な命令文だけでした。
 この頃には一方で、使用者概念切り縮めの流れに抗して、数少ない正当な判断である最高裁判例である朝日放送事件(95年判決。番組制作の下請会社の労働者に対する朝日放送の使用者責任が認定された。実態として雇用者と同視できる関係があるとき、使用者の責任が存在するとしたもの。)の判断を労働者側はかち取りました。不当な労働委員会命令の取り消しを求める行政訴訟の第一審では、東京地裁が、これとの同一性の有無が争点であることを確認しましたが、証人尋問終了、1999年の最終準備書面提出後にも裁判所が争点整理やそれにそった双方の主張提出を行いたいとして、期日を入れてはなかなか裁判所側の整理がつかず、その後も判決期日も4回も延期され、ようやく2001年7月に判決が出されました。学研側は、学研に派遣されたふじせ企画の労働者の一部の者のタイムカードをふじせ企画側の副編集長の肩書きも持った労働者が毎月集約していた、という瑣末的な事をもって、下請会社の側で独立性を持って勤怠管理を行っていたのだから学研に使用者性はない、という到底通用しない主張や、争点に関係ない当労組のその後の争議行為を違法視する主張をくり返すのみでした。朝日放送の下請会社でも、タイムカードの類のこの程度の管理は行っていたのであって、ふじせ企画の労働者を実質的に管理・指揮して日常業務を行わせていたのは学研の管理職です。朝日放送事件以上に学研の使用者性は強いものであることを当労組は証拠をもって明らかにしてきました。しかし、地裁判決は、何を整理して判決を練っていたのか全く疑わしい、学研の言う「タイムカード」の管理のみを根拠にした使用者責任否定の許し難い判決を出したのです。裁判所も悩み抜き、政治的に黒を白というこじつけをしたものです。
 しかし、さらにひどかったのが控訴審の高裁判決でした。「争点は朝日放送事件との同一性の有無ですね」と認めていたにもかかわらず、東京高裁の奥山興悦裁判長は、いざ判決の日を迎えると、自ら声高に約束していた同一性についての検討・判断は一切避け、「学研には使用者性がない」という根拠無き結論のみの判決を出したのです。わずか紙切れ一枚の判決でした。しかも、学研が組合潰しを狙って業務総引き上げを行って下請会社を倒産させた事実については労働委員会も正面から否定できず、使用者でない者の不当労働行為=組合潰しの行為は認定の対象外、という命令を出していたのですが、奥山裁判官は、何の根拠も示さず、業務引き上げをふじせ側からの返上とする学研の主張を部分引用する不当判決を出したのです。同裁判官は、当時、労働者側を敗訴させる牽強付会の判決を数多く出して非難を浴びている人物でした。
 最高裁も、何の検証もせず地裁・高裁の結論を形式的に追認し、「上告棄却」のみの決定を出して自らの判例(朝日放送判決)をないがしろにして「使用者性」をめぐる裁判が、2003年に終わりました。
 しかし、これらの判決は何の正当性もありません。85年の東京地裁の損害賠償訴訟判決こそ、学研の使用者実態と組合潰しの業務引き上げを正しく認定するものでした。この裁判は、学研と東京ふじせ企画破産管財人の間のいわば経営同士の争いで、学研が業務を引き上げたが、それに渋々同意した下請経営者ば委託契約解除に従ったものとして判決では倒産に対する学研の賠償責任は認めませんでした。しかし、裁判官は、「もし組合が起こした損害賠償請求だったら、組合が学研に勝っていただろう」と言及しました。こうした正しい判定の流れが続いていれば、今日のような派遣制度の暴走による悪質な労働者使い捨ては無かったであろうと思います。先日出された、松下プラズマに対する吉岡さんの闘いへの最高裁の判決も不当なものであり、使用者責任を免罪する派遣制度をただ容認するだけのものでしかありません。
 不当な判決を根拠に、学研の倒産攻撃の争議責任は免罪されません。足利事件など刑事事件でのえん罪と同様に、民事でも裁判所の不当な判断にはあくまで闘うものです。
 裁判所では、過去に相反する二つの判断が出されたわけですが、いずれにしても、労働争議は最終的には会社と労組が話し合いでの自主的な合意を形成しなければ解決には至りません。これまでも、学研は、ふじせ争議の責任を認めて解決に動こうとした学研の大橋監査役を解任したりし、05年6月の株主総会では、ついに一般株主が「ふじせ労組委員長を社外監査役に」との株主提案まで出すに至りました。不祥事の数々と業績不振に対して自浄能力を全く喪失した学研の問題体質の改革を求めたものでしたが、聞く耳を持たない学研の経営陣は、これを必死になって否決に持ち込み、無責任態勢の温存を図って居直っています。このような姿勢を許さず、教育出版社の看板を掲げて悪質な暴力的労務政策・労組弾圧の歴史を押し隠す学研経営の問題姿勢を改めさせない限り、真の経営再建などあり得ません。
 共に学研経営に抗議の声を上げていただきたいと考えるものです。